13.社会権 13−1 生存権       第25条  すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。      国は、全ての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。 1.25条  *25条1項と2項の関係をいかに解するべきか。B   →1項2項一体説(通説):1項2項を一体的に捉え、1項は生存権保障の目的ないし理念を、2項はその達成のため の国の責務を定めたものである、とする。    1項2項分離説:2項は国の事前の積極的防貧施策をなすべき努力義務のあることを、1項は2項の防貧施策の実施 にもかかわらず、なお落ちこぼれた者に対し、国は事後的・補足的・個別的な救貧施策をなすべき    責務のあることを宣言したものと解し、2項については広く立法府の裁量に属するとする。   c.現実には防貧施策も救貧施策の一環として行なわれる。立法府の裁量を認めるのは妥当でない。 2.法的性格と違憲審査基準 (1)法的性格    自由権的側面…国家は国民の健康で文化的な最低限度の生活を維持増進する自由を侵してはならない。→裁判規範性   {社会権的側面…国家に対して健康で文化的な最低限度の生活を求める。→裁判規範性が問題に。   *生存権の法的性格 A    →プログラム規定説:25条は国の政治的目標ないし政治的道徳義務を定めたものであり、法規範性を否定する。 r.権利の具体的内容とその実現方法が明確でない。 c.憲法が明文で「権利」と規定している以上、法規範性を否定することは妥当ではない。 抽象的権利説(通説):法規範性を肯定するが、直接25条1項を根拠として国の立法や行政の不作為の違憲性を        裁判で争うことは認められない、とする。但し、この規定を具体化する法律の存在を前提    として、その法律に基づく訴訟において、25条1項違反を主張しうる。   r.生存権の内容は、抽象的で不明確であるから、25条を直接の根拠にして生活扶助を請       求する権利を導き出すことは難しく、生存権を具体化する法律によって初めて具体的な 権利となると解さざるを得ない。しかしこのような内容の権利であっても「権利」と呼ぶ             ことは可能である。 具体的権利説:直接25条1項を根拠として裁判所の給付判決を求めうるとはしないが、国が25条を具体化する    立法をしない場合に国の不作為の違憲確認訴訟を提起できるとする。   r.25条1項の権利内容は、行政権を拘束するほどに明確ではないが、立法権と司法権を拘束する     ほどには明確である。   c.立法不作為違憲確認訴訟は三権分立との関係で問題がある。この判決が出されたとしても立法を     義務づけることはできないだろうから、効果の点で疑問である。   権利であることを正面から認める→NO プログラム規定説   YES 抽象的権利説・具体的権利説   立法不作為違憲確認訴訟まで認める→NO 抽象的権利説    YES 具体的権利説 (2)25条の違憲審査基準   …行政が立法の基準通りの給付をしない場合(社会権的側面)国民の生活を国家が侵害してきた場合(自由権的側面)    立法が不存在・不十分・立法による保障が減額ないし廃止された場合には立法不作為が問題となり、違憲審査は問    題とならない。   *生存権具体化立法についての違憲審査基準  A    →判例)明白性の基準を用いる。    r.生存権の具体的内容の判断には国の財政事情やその他の事情を考慮した政策的判断が必要とされる。 司通)生存権を、人間としての「最低限の生活」に関わる部分と、より快適な生活の保障を求める部分に分け、前者    に対しては、より厳格な基準である厳格な合理性の基準を用い、後者については明白性の基準を用いる。    r.人間としての「最低限の生活」に関わる部分については、より厳格な基準を使用することによって生存権          の権利性を裁判上十分に保障することが必要である。 3.環境権  *環境権の概念は健康で快適な生活を維持する条件としての良い環境を享受し、これを支配する権利と理解されているが、   その妥当範囲はいかに解されるべきか。B   →通説)大気、水、日照などの自然的な環境に限定する。  *環境権は何条で保障されるか。明文がないため問題となる。B   →通説)13条と25条が根拠となる。現在の環境を侵害するような行為に対しては自由権的な環境権として裁判規範       性があるが、よりよい環境を求めるという社会権的側面においては抽象的権利に留まる。   r.環境権は自由権的側面と社会権的側面があり、社会権的側面としては公権力による施策が必要であり25         条が根拠となる。 13−2 教育を受ける権利       第26条  すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。    すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教        育は、これを無償とする。 1.内容  (1)教育を受ける権利−学習権 (中心)          社会権的意義…教育基盤の整備      参政権的意義…明日の主権者の育成 2.教育権の所在  *教育権(教育内容決定権)は誰にあるか。教育の内容や方法に関して、国の考え方と教師・親権者の考え方が衝突した   場合にどちらが優先されるべきかが問題となる。A   →国家教育権説:教育権の主体は国家であり、国家は公教育を実施する教師の教育の自由に制約を加えることが原則と           して許される。教育内容の決定方法は全国一律に法律で定めるべきであるとし、多数決との関係では   国民主権との関係で多数決の過程を経るべきであるとする。    国民教育権説:教育権の主体は親を中心とする国民全体であり、公権力のなすべきことは国民の教育義務の遂行を側       面から助成するための条件の整備に限られ、公教育の内容・方法については原則として介入できない。   教育内容の決定方法は普通教育の現場で個別に定めるべきであるとし、多数決との関係ではあくまで       私事性を有するので多数決によるべきではないとする。    折衷説(判例):教育の本質からして教師に一定の範囲で教育の自由は保障される(原則)が、教育内容について必    要かつ相当と認められる範囲においては国の介入権が認められる(例外)。但し、その際子どもが    自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような介入は許されない(限定)。  r.原則の理由−国の過度の教育内容への介入は教育の自主性を害し、許されない。    例外の理由−児童生徒には教育内容を批判する能力がなく教師に強い影響力がある。    子どもの側に学校や教師を選択する余地が乏しい。  全国的に一定の水準を確保すべき要請が強い。    限定の理由−26条(子どもには学習権が認められる)、13条の規定。 3.義務教育の無償  *26条2項のいう「無償」の範囲はどこまでか。明文上明らかでないことから問題となる。B   →無償範囲法定説 c.プログラム規定説に近い。    授業料無償説(通判):教育の対価たる授業料の無償を定めたものとする。但し、授業料のほか教育費一般の無償が               政策的に望ましいとする。    修学必需品無償説:修学に必要な一切の金品を無償とすべきと解する。 13−3 勤労の権利       第27条  すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。      賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。    児童は、これを酷使してはならない。   *勤労の権利の法的性格(社会的側面)をいかに解すべきか。B    →かつての通説)国家に対して国民に労働の機会を保障する政治的義務を課したものにすぎない。 最近の有力説)国家に対する関係では、法律の改廃による積極的侵害を争うことができ、使用者との関係では、使            用者の解雇の自由を制限するという点で法的効力が認められる。 少数説)国家が必要な立法や施策を講じない場合には、国の不作為による侵害として裁判で争いうるという意味で     具体的権利である。 13−4 労働基本権     第28条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。 1.意義  (1)労働基本権の内容    団結権…労働者の団体を組織する権利(労働組合結成権)    団体交渉権…労働者の団体が使用者と労働条件について交渉する権利    団体行動権(争議権)…労働者の団体が労働条件の実現を図るために団体行動を行なう権利  (2)労働基本権の性格    社会権としての側面…国に対して労働基本権を保障する措置を要求し、国はその施策を実現すべき義務を負う。    自由権としての側面…労働基本権を制限するような立法その他の国家行為を国に対して禁止する。    私人間に直接適用される、使用者に対する民事上の権利としての側面 2.具体的内容  (1)団結権…労働条件の維持・改善のために使用者と対等の交渉ができる団体を結成したり、それに参加したりする権利    1)消極的団結権・組織強制    ‐組織強制の種類  クローズド・ショップ:労働組合と使用者の協定により、使用者が従業員を雇用するに当たって組合員の中から  のみ採用し、又従業員が組合資格を失うと、使用者はこれを解雇することを定めるもの。 ユニオン・ショップ:使用者は従業員を雇用するに際し、組合員資格とは無関係に採用できるが、労働者がいっ  たん雇われた以上は一定の期間内に組合に加入しなければならず、組合に加入しないか、   又は組合から脱退ないし除名されたときには労働者を解雇しなければならない旨の労使間  の協定。( 日本企業は通常これを使う。但し国営企業等では禁止されている。)    *労働組合への加入強制は認められるか。結社をしない自由を含む21条の結社の自由との関係で問題となる。B+ →通説)侵害しない。r.消極的団結権を認めると労働者を団結させることによって使用者と対等な地位に立たせ                 ようとした28条の趣旨に反する。    2)労働組合の統制権と組合員の権利    *労働組合には組織を維持し、組合の目的実現のために組合員に一定の規制及び制裁を加える統制権が認められるが、 その根拠は何か。B+ →判例)28条の団結権である。労働組合は財産取引を目的とする団体とは性質を異にし、これらの団体より、よ  り強い統制権が認められる。    *労働組合が選挙において特定の候補者を支持した場合、それに対抗して立候補した組合員を、統制違反として除名     することは許されるか。B+ →判例)許されない。r.立候補の自由は15条1項の趣旨に照らし、基本的人権の1つとして憲法の保障する重  要な権利であり、これを制限することは組合の統制権の限界を超えるものである。  (2)団体交渉権     (3)争議権   *争議行為の目的−政治ストは目的の正当性を有し合法と言えるか。B    →政治スト違法説 r.団体交渉の手段たる争議権は、団体交渉という目的との関係においてのみ憲法上保障されて    いるのであるから、争議行為の目的が、使用者として処理しうる事項に関する場合にのみ、   その正当性が認められる。 経済的政治スト合法説:純粋な政治スト( 安保反対)と、労働者の経済的地位の向上に密接に関わる経済的政治 スト( 消費税反対)とを区別して、後者は合法であるとする。    r.争議権の目的は、労働者の生活利益の擁護ないし生存権の保障である。 政治スト全面合法説 r.政治ストがストライキ権の実体を形成してきたという歴史的事実があり、28条が明文  で除外しなかったのは、このストライキ権の歴史的・社会的意味を認めるものである。 3.労働基本権の制限  *労働基本権の制限に対する違憲審査基準は何か。  A   →芦部説)LRAの基準によって合憲性を判断する。(労働基本権は精神的自由と経済的自由の中間に位置するとする)    r.労働基本権は、労働者の生きる権利として保障されているので、それを規制する立法について立法府の          裁量を過度に重視することは妥当ではなくある程度厳格に審査することが必要である。